「狂月―くるいしつき―」
ゑ霧・七拾八。


 闇夜に照らされるは煌煌とした中秋名月。
 燃える様な色をなす紅葉が舞い散る渓谷。


 ―――そこはかつて、罪人の処刑地だった場所。



 報われぬ魂の怨念渦巻くこの渓谷で、酒呑童子はかの男―――宿敵たる頼光との再戦に身を、血を、滾らせていた。
 酒呑にとって、この時、この瞬間をどれだけ待ち望んだだろうか。
 あの時から千年…いや、それ以上の時が経っているのかもしれない。


 「来たか…頼光!!!」
 舞散る紅葉の中、ようやく現れた人影に歓喜するが―――その場に現れたのは、待ち望んでいた者ではなく。

 明らかに地の人間とは異なる、淀み無き清気。
 気高さと凛々しさ……男にしては美しい顔立ち。
 纏う衣装が俗に言うところの『白拍子』の装束でなければ、女とは思わなかったであろう。


 近づいてきた女は扇を開き、自らを「安倍晴明」と名乗った。
 それは、頼光をこの世に黄泉返らせたという現の朝廷の陰陽師であり、巫術師。
 彼女は頼光の代わりに、己を屠りに来たのだと言う。

 待ち望んだ瞬間を女一人に邪魔された事に拍子抜けするも、その後に湧き上がる苛立ちと怒りは、必然的に目の前の女に向かう事になる。

 「己惚れるな、女!!興が殺がれたぞ!!!」

 巨大な鉄棒を振り回し晴明に襲いかかるが、振り下ろされる直前でひらりと舞う様にそれをかわす。
 最強の鬼と謳われた酒呑であったが、流石に最強の陰陽師と謳われる晴明を追い詰める事は容易くも無く。
 優雅であっても的確に急所を突いて来る攻撃とその巫術の強さに、まるで玩ばれるかのように翻弄され、逆に危うきまでに追い詰められた。


 ――――だが。
 「……っ!!!」
 突然、晴明が体制を崩して倒れ、息も荒く咳込む。
 己の戦いでそうなった訳ではなく、何らかの理由で身に限界が生じたのは分かったが――そのような身体で戦いを挑むとは。
 正に愚かとも言うべき晴明の行動に嘲笑を浮かべ、息苦しむ顎を取り無理矢理上を向かせる。
 「斯様に無様な身体で戦いを挑むとは。何故、頼光をここへと導かなかった。」
 「…ここで、頼光を貴方に屠らせる訳にはいきませぬ。彼には、まだ成すべき事がある!!」
 鋭き眼光で怒気孕み言うや、気丈にも扇を酒呑に突き立てる。
 「っ!!!」
 咄嗟に避けたものの、扇は酒呑の頬を掠め、微かに傷を付けた。
 即座、扇を持つ両の手首を奪い、握り締める事でそれら二本を地に落とす。
 「油断無き女よ。」
 「くっ…!!」
 苦痛に顔を歪めつつも、睨み付けてくるその瞳には、確固たる意思が宿り。
 そして、複雑なまでの思慕――頼光に対する恋慕と言うものが潜んでいるのを、酒呑は見逃さなかった。
 「そうか…うぬが頼光を現世に縛り付ける因子とはな。真、罪なものだ。」
 「……。」
 晴明の顔を見詰め、吐き捨てるように言い放つ。
 「まぁどうでも良き事。貴様があやつを地に縛るのであれば、ここで討つ。さすれば、頼光は自由を手に入れる事が出来よう。」
 「…果たして、そうでありましょうか?」
 ようやく晴明が口を開き、嘲笑うように言葉を紡ぐ。
 「貴方に、我を討つことは出来ませぬ。何故なら、この身は死と言うものを寄せ付けぬ身。例え四肢を引き裂かれようと、この命は尽きる事を知りませぬゆえ…何なら、試してみるか?」
 
 この陰陽師の女は、この地の者ではないという噂を聞き及んでいた。
 天から舞い降りた女とも噂される稀代の巫術師・安倍晴明。
 なれば、それもあながち嘘ではないのかもしれないとさえ思えてくる。
 だが、気高く、誇り高く、自身ありげなその態度が、まるで己を嘲笑っているかのようで、酒呑は苛立ちを隠せないでいた。
 この女の自尊心を殺ぐ最も有効な手段は―――
 「実に憎らしき女よ。その減らず口を塞ぐには、その誇り高き心を殺ぐしか手がなかろうな。」
 言うや、掴んだままの両手首を傍の木に押し付ける。
 「なっ…!!!」
 晴明がはっとした瞬間、狩衣が音を立て引き裂かれ、内の衣の襟を大きく寛げられ――柔らかな双の膨らみが、外気に曝された。
 「っ……」
 「貴様程の女なら、その力もさぞかし強大なものであろう。」
 鬼が、身から巫力を奪う。
 ―――その手段の一つに、身を交じらせて奪うものもある、と言うのを晴明は聞き及んでいた。
 「何とも浅ましき鬼よの。我が身を辱しめて心を殺ぎ、巫力を奪うつもりか。我がそのような手に落ちると思うておるとは!!」
 だが、乳首に這うざらついた舌の感触に、晴明がびくりと身を疎ませる。
 「ぅっ…く……っ……!!」
 ちろちろと紅く滑る舌で果実を刺激され、晴明の身体が快感に震えた。
 掴まれた腕は今だ開放されず、地に付かない足もあってか、まるで吊り下げられた罪人の如く。
 膨らみの頂きの果実は鬼の舌と掌の愛撫を受け、滑りを帯びて紅く起ち上がる。
 「ふっ…ぁ…っ…」
 甘い息を漏らすその様を見て満足した酒呑の掌は、そのまま腰の辺りへと伸びて起用に袴の帯を解いてゆく。
 「っ!!止め……っ…」
 器用に袴を剥ぎ落とされ、必死に閉じようとする内股に片掌がするすると這いまわる。
 大腿を伝っていた掌は無理に叢を掻き分け、花芯を弄りあげ…更にその奥、既に少量の蜜を滴らせる秘所に濡れた音を立てて指がつぷりと突き刺さった。
 「痛っ…」
 野太き指が更にもう一本蜜壷に進入し、掻き回して押し広げる感触に、晴明は身を捩じら抵抗するが。
 「ひっ…あぅっ!!……」
 掴まれた腕が瞬間、開放されたかと思うと、2本の指が奥深くまで突き刺さる。
 鋭い痛みに晴明の表情が歪むが、突き上げる指の動きと、更に――生暖かい鬼の舌が濡れた音を立てて花芯を厭らしく這い絡みつく。
 「くっ……んんっ…っ……」
 必死に退け様とするが、掴まれていた為に力の入らない指は空しく朱の髪に埋もれた。
 まるで誘うかのうような仕草に酒呑は笑みを浮かべ、晴明が良い反応を示す所は、殊更執拗な愛撫を繰り返し施す。
  強い刺激を受けた蜜壷は熱く蕩け、内から蜜を止まる所無く溢れさせ…晴明を徐々に追い詰めてゆく。
 「ここが良いか」
 「…あ…っ!!……ふっ…く……・――――っ…」
 酒呑の指と舌淫に無理に高みへと追いやられ、晴明はひくりと大きく身を震わせると―――果てた。

 漸く開放された身体は力無くずるずると木を伝い、そのまま膝をつく。
 大腿に、溢れ出た蜜が伝い落ち、足元で蟠っていた袴の上に滴る。
 纏わりついていた衣が、汗に濡れた肌の上を艶かしく滑り落ちた。
 「既に絶頂すらも知っておる身か。中々の淫質だな」
 鬼の面と指に絡みつく粘液は、紛れも無く晴明の壷内から溢れ出た愛液。
 「…穢らわしき鬼ぞ…っ……!!」
 見せ付けるようにそれを舐め取る鬼に、晴明は頬を朱に染めながらも罵倒する。
 「何を言うか、これは貴様の身体から溢れた蜜ぞ?」
 言うや、蜜が残る粘ついた指を晴明の口内へと押し付ける。
 「…!!んっ…ぐっ…」
 「貴様が穢したこの指の汚れ、しかと綺麗に舐めとるのだ。」
 指先で舌を弄り、口内を甚振り尽くす。
 「ぅ…ぐっ…げほっ…げほっ…」
 存分に弄り、漸く指を引きぬけば、晴明は苦しみのあまり身を縮込ませ大きく咳込む。
 そんな哀れな様もさして気に留めず、白き両の足を取り、無慈悲に大きく広げ肩へと持ち上げる。
 「…っ!!!」
 これ以上身を蝕まれる行為に危機を覚えた晴明が必死に抵抗を試みて暴れるが、両の足を肩に担ぎ上げられた上 に逞しき腕に固定されてしまった下半身は動く事もままならず。
 指と舌に嬲られてすっかり蕩け解された秘所に、熱い肉塊が押し付けられる。
 「男の様に振舞おうとも、身は真、女よ――しかも男の味を知っておる。存分に楽しむが良い。」
 「くっ…はぁぁっ……!!!」
 濡れた音と共に一気に貫かれ、晴明の口から苦痛の声が上がる。
 指とはまるで大きさの違う剛物の無理な挿入に、内が裂け血が滲みはじめたが。
 鬼である酒呑にとってはその血臭すら極上の美酒。
 苦悶の表情を浮かべる晴明を見て笑みを浮かべ、腰をゆるりと引き、再度最奥へと突き上げる。
 「ひっ!……あぅっ……」
 血を滴らせているとはいえ、この女は既に生娘ではないと、先程の媚態と蜜壷の感触で判る。
 内を広げられ、埋められた陽根の感触に身を震わせる様は、痛みや苦痛以外に――快楽をも齎しているというのが、晴明の表情からも見て取れた。
 ならば、容赦するも無き事。
 口元に残酷な笑みを浮かべ、細腰を掴みあげると、叩きつけるかの様に己が腰を突き動かす。
 「ひっ…あぁっ!!」
 深く浅く突き貫き、掻き回すように動かす度に、くちゅっくちゅっと濡れた音が響く。 
 「くっ…っ…んぅっ…!!」
 頬を染めて瞳をきつく閉じ、唇を噛締め、苦痛と快楽に耐えようとする表情が。
 嫌がり頭を振る度に、汗を含んだ艶やかな黒髪が白い肌に纏わり付く様が酷く淫猥で、艶かしく。
 何より、身の壷内の感触の程良き事。
 己の動きを誘うように絡みつき、締付ける感触に夢中になって浅く深く突きあげる。
 高まる興奮に嫌がる顎を取り、荒く甘い息を吐く唇を吸い上げ、舌を絡めて深く味わう。
 「…んんっ…」
 一方の晴明は、絡められる舌を噛み切る力さえなく、身を侵食するが如き剛物の動きと苦痛に耐える事に必死だった。
 男と交わった経験も乏しく、たった一人、身も心も許した男――頼光と交わった時には無かった、無理矢理の交わり。
 辱め、貶め、身を征服すべく淫らに内を動く鬼に屈しまいと身を強張らせるが、かえって暴れる塊を締付ける結果になり、そのおぞましき感触に打ち震える。
 「…ん…っ…くっ…はぁっ…ああっ…!!」
 濡れた音を立て開放された唇は、厭らしく互いの唾液を引き。
 一度開かされた口からは止め所も無く苦痛の悲鳴とあえかな嬌声が上がった。
 「真、良き壷よ…よもやこれ程までとは思っていなかった…ぞ…っ」
 「あっ……!!!」 
 奥深く突いた拍子にきつく陽根を締付けられた酒呑は、締付けに誘われるように蜜壷に熱を注ぎ込む。
 突然身の内に撒き散らされた気の感触に、晴明の身体が大きく強張り震えた。


 「…っ……」
 内を存分に侵食していた楔を引き抜くと、快楽に小刻みに震える大腿に、朱の混ざった大量の白い粘液が滴り落ちる。
 その感触にぞくりと身を震わせる晴明を酒呑は嘲笑う。
 「…あのような衣を纏っておったとはいえ、よもや真に男を知っておるとは思わなんだ。頼光か、それとも他の男か―――どうでも良き事か。」
 力無く臥す晴明の腰を高く持ち上げ、血と精が混ざった愛液を滴らせる女陰に猛る根を再度押し当てる。
 「っ…もう十分であろうっ……あっ…ひっ……!!」
 「まだ、巫力を貰うてはおらぬ。」
 再度貫かれる感触に、晴明は無き力を振り絞って抗うが、無常にも1度受け入れた箇所はさしたる抵抗も見せずに、濡れた音を立てて鬼の物を再度奥深く埋めてゆく。
 「くぅっ…!!!」
 背後からの貫きは、獣の如く。
 始めの時よりも更に深く交わるようで――辱めを受けているという感覚が嫌にも増す。
 肉を内に突き叩きつけられ、痛みに顔を顰めるが、本能とは恐ろしきもの。
 苦痛から逃れる為――より深く快楽を貪る為に、徐々に鬼の動きに合わせて晴明の腰もゆらゆらと動き始める。
 「身体とは正直なものだな。動きを助けようと内から淫らな蜜が溢れ出ておるわ。」
 背後から胸を鷲掴みにされ、荒々しい愛撫を施され。
 濡れた音と、肉と肉の激しくぶつかる音と、大腿を伝う液体の生々しい感触、それらが全て交じり合い、晴明の心を苛み続ける。
 「ひっ…ぁっ……!!」
 腰を強く掴まれ、そのまま鬼の膝上に抱え上げられると自重で楔が音を立てて最奥を貫く。
 「よく見てみるといい…鬼に穢されし己が蜜壷を」
 言われて閉じていた瞳を開け―――晴明は震える。
 大きく足を広げられた先に暴かされた女陰は無残に広げられ、血を滴らせていた。
 血と愛液に濡れて光る淫猥な巨根を咥え込む――その、生々しいまでの卑猥さ。
 「くっ……」
 顔を背け、屈辱に耐えるがそういった態度が余計に酒呑を楽しませている事に、晴明は気付く筈もなく。 
 そんな様を更に楽しもうと、耳元に毒の如き言葉を吹き囁く。
 「こうしてる間に頼光がこの場に来るやもしれぬな。それともいっそ、我等が淫らに繋がってる様を見せ付けるか?」
 「ぅ…っ…」
 頼光の名を出したとたんに、晴明の身がびくりと震え、内をやんわりと締付けてくる。
 「フフ…良いぞ…あやつにも、こうしておるのか?」
 耳にぬるりと舌を這わせ、わざと優しく愛撫を施すが、嫌々と首を振る様がまた可愛らしくもあり、憎らしくもあり。
 決して堕ちようとしない高潔な魂と身を、如何にして辱めるか――酒呑は久々の極上の贄の手応えに酔う。
 「そろそろ…貴様の身から巫力を貰うか。」
 「なっ…?…くっ…嫌っ…ぁっ……!!」
 無骨な指が花芯を嬲り、同時に 突き上げが激しくなる。
 敏感な箇所を同時に嬲られる感触に、白き身は大きく快感に震え。
 「い…や…っう…っぁ…あああ――――っ!!!」
 艶やかな悲鳴――嬌声を上げ、大きく身を震わせると、晴明は再度高みを迎えて果てた。
 酒呑は身に満ちる女の巫力に満足し、代わりとばかりに己の気を弾けさせる。
 再び身の内に大量の気を注がれた晴明は限界を迎え、そのまま力無く鬼の胸に崩れ落ちた。
 だが、鬼の精力と欲望は止まる所を知らず。
 「我は並の男とは精力が違うぞ?我に刃を向けた罪――その身で贖うが良い。」
 気を遣りし晴明の全てを味わい侵食すべく、動かない身を地に臥せ、深深と楔で身の内を再度突き上げた。



 ―――それからどのくらいの刻が経ったか。

 何度も気を遣り、果てた女の内から己を引き抜けば――開いた女陰から大量の愛液と血が絡んだ白濁液が溢れだし、大腿を伝って滴り地に染み込む。
 並の女であれば、酒呑に身を奪われたが最後―――残らず正気を吸い尽くされ、そのまま死に至るのが常であった。
 だが、晴明は憔悴しきってはいたものの、ただ気を失ってるだけで。
 しかも、全ての巫力を奪い去る事すら出来なかった。
 『たとえ四肢を引き裂かれようが、この命は尽きる事を知りませぬ。』
 あの言葉があながち嘘ではない事を、身をもって体感した事になる。
 「斯様な出逢いでなければ、即座我が女にしたものを。」
 始めはその誇り高く気高き魂を穢す事だけを考えて辱めたのだが。
 唯1度交わっただけで酒呑は、馨しき身の晴明の気質にすっかり溺れていた。

 己の怒気を受けてもひくりとも怯まぬ女など、己の攻撃をかわす女などそうはいないだろう。
 己の愛技と剛物を受け入れ、身の壊れぬ女など―――あまつさえ溢れぬばかりの巫力を持つ女など、まずこの地にはいまい。
 正に、己が理想とも言うべき女。
 だが、この女は既に頼光の情人であり、宿敵の情人を質に取ってまでの戦いは、酒呑の望まぬ所であった。
 今だ意識の戻らぬ白き身に衣をかけ、顔に掛かる汗で張付いた黒髪を払う。
 苦悶には満ちているが、真、凛々しく美しき貌。
 「……頼光と争う理由がまた一つ増えたか。」








 身にかかる冷たい空気に、少しずつ晴明の意識が覚醒する。
 月は沈んでいたが、夜明けにはまだ幾ばかの刻があった。
 「……。」
 辱しめを受けた身体には情け程度に衣がかけられ、紅葉の木の元に寝かされていた。
 (…殺されなかったのか…?)
 だが、殺される以上の恥辱を身に味わったのも、また事実。
 ―――途中意識を戻しては、悪夢の様な刻。
 ただ器のように身の内に鬼を受け入れ、辱めを受ける己がそこにいた。
 秘所から溢れる大量の愛液と血、白精は、何度も何度も鬼に犯され、身を穢された証。
 
 
 人外―鬼に犯された身体が、一体どのような変調を来すのか――それすらもわからない。
 早く身を潔斎したかったが、身体が鉛のように重たく動かないでいた。
 (…力を一部吸われたか……)
 明らかに、少量の巫力の消失感があった。
 少し休めば戻るだろうから大した事は無いだろうが。
 身を交じらせる事で巫力を吸い取られる外法行為は晴明にとって初めての体験だった。
 頼光と契った際にはありえなかった――愛も心も無き行為。
 「……。」
 晴明は深いため息をつく。
 頼光には黙り、この地に自ら来た――言わば、自業自得の行為ではあったが、
 今更ながら、身を卑しき鬼に弄ばれた事に悔しさが込み上げる。
 負ける気など無かったのだ。
 白珠を抜き取られた今、晴明の身体は本来の力を取り戻しつつあった。
 ただ、まだ完全には力が戻りきっていなかっただけの事。
 (―――我が身を辱めた鬼…次に会いし時は、必ずや屠って見せようぞ…!!)


 痛みで震える身体を叱咤し、ゆるりと身を起こして裂かれた衣を手繰り寄せる。
 狩衣は裂かれたが、幸いに中の衣と剥ぎ取られた袴は少々皺より、汚れながらも無事だった。
 せめて身を綺麗にしてから纏いたかったが、潔斎しようにもこの地の水は黒き穢れを帯び、触りたいとは思えず。
 だが、口の中に残るおぞましい粘膜の感触に吐きを覚え蹲る。
 (せめて口内だけでも)
 手に少量の水を取り、残った巫力で浄化すると、口に含んで濯き吐き出す。
 水と共に吐き出された白き液体を忌々しげに見つめていたが、ふと、知った気が近づいてくる事に焦りを覚えた。
 (斯様な姿、見られては…っ…!)
 手早く紅い衣を羽織り袴を着けるが、何処かに逃げ隠れようにも、これ以上動く事はままならなかった。
 「そこに…居るか、晴明」
 頼光の声に、びくりと身を疎ませる。
 「何をしに参ったのですか、頼光。」
 悟られてはならない。
 この場で、一体何が行われたか。
 「それ以上、近づいてはなりませぬ。」
 だが、声を掛ければ人とは近づいてくるもの。
 晴明の静止も聞かずに、無慈悲にも頼光は歩み近づいた。


 「…その姿は……」



 「…近づくなと言ったではありませぬか、頼光。」
 本当は、その胸に顔を埋めて泣きはらしたかった。
 だが、己の心が、絶対にそれを許さない。
 油断したとはいえ、鬼に、身体を嬲るように弄ばれ、一部とは申せ力を奪われたのだ。


 酷く乱れた晴明の姿と、身の内から溢れ出る異質の気から、その場で何が行われたか、さしもの頼光にも痛い程判った。
 晴明の―――女の尊厳を、踏み躙る忌まわしき行為。
 一体誰が?という疑問もあったが、それよりも…炎の如き怒りが頼光に湧き上がってくる。
 一方の晴明は、何事も無かったかのように顔を背けて立ち上がろうとしたが、身を蝕む鈍痛からよろめき倒れそうになる。
 そんな晴明の身を支えようと伸ばされた頼光の手は、瞬く間に払われた。
 「斯様に穢れた身、触れてはなりませぬ。」
 だが、気丈なまでの晴明のその態度が、逆に頼光を酷く苛立たせた。
 「誰が…斯様な真似をした、晴明。」
 「……これは、己が力を過信した罰。貴方には、関係の無き事。」
 「晴明!!」
 肩を強く掴まれ、珍しいまでの頼光の怒声にはっとするが、晴明はただ首を振る。
 「貴方にはまだ成すべき事がありましょう。私如きに気を留めてはなりませぬ。」
 「貴方にとって我はその程度の男か?」
 頼光の言葉に、晴明は身を刻まれるような痛みを覚える。
 先ほど鬼に辱められた痛みとは違う、心に突き刺さる鋭き痛み。
 己が身を、真に大切に思ってくれる優しい男。
 ―――それでも、この弱さを見せたくは無かった。
 「…もう、ここから離れましょう、頼光。」
 「……。」
 肩に掛けられた暖かき腕を払い、晴明は舞散る紅葉の中をゆるりと歩みだす。
 気丈にして―――痛々しい姿。



 頼光は、その背を見詰める事しか出来なかった。





●伝言と言訳にござる。ゑ霧・七拾八より。
酒晴などという外道カプものを送りつけて申し訳無い、偽・伽月殿あーんど閑人殿。
元々は偽・伽月殿の「晴明様で酒呑屠れない。・゜・(ノД`)・゜・。」の一言から始まった話であるが本来は某所に落とそうと考えていたものゆえ、少々激し目ですまぬ(´・ω・`)ショボーン
途中から酒がどんどんエスカレートし「貴様、それでも頼光を宿敵とかいて戦友(トモ)と呼ぶ男か!」と罵るくらいに、頼光の情人の晴明様をウマー…いや、これは我が悪いのでござるな。

なお、酒呑の面に関してはツッコミ受けませんというか、受けれません。

これからも偽・伽月殿も閑人殿も、萌え萌えな御伽あーんど九怨を期待しておるぞよムハハハ

…最後の最後で無駄に足掻いてすまん、偽・伽月殿…。

●閑人より
あわあわ〜!!心の師匠(←ほんとう)ゑ霧・七拾八様が斯様な萌え文を!
七拾八様の書かれる話は純愛は勿論、陵辱モノなど少々痛い系統でも
その恐るべしな筆力で読めてしまうという……完敗にございまする。

酒呑すらも魅了してしまう晴明さまの肢体恐るべし!!
しかしそれ以前に頼光と契りを交わしていた晴明さまに萌え。
この後の頼光と横恋慕な酒呑による晴明さまを巡る争いが
見てみたいと思う今日この頃です。

●偽・伽月より
ゑ霧・七拾八殿、お久しゅうございまする。(←本日深夜連絡あったばかり)
斯様に美味しい作品、本当に貰って宜しいのでせうか〜?はぁはぁ…
まさかあの一言がここまで美味しいものに転ずるとは!!言ってみるものですな〜
申し訳無いなどととんでもない、よもや本当に貰えると思ってなかったので閑人共々感涙です。
裏平安裏初の5★の栄冠を授けまする!!!
それにしても頼光、へたれなり(酷っ)そこで晴明様を無言で姫抱きしてこそ男だろう!!(苦笑)
妙な事をほざいておりまするが、次回も是非萌文をお待ちしております!!はぁはぁ(えんどれす)
ところで約束の品…ここが良いですか、それともおえびがよいですか(何)










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