幼い頃から大好きで… 忙しい日常生活を今日も終え、夜の帳が降りる頃。 十兵衛が部屋を出ようと扉を開けたとき、偶然にも花月が扉のすぐ外にいた。 「あ、十兵衛」 視線が合った瞬間、いつもの様に笑顔で自分と接してくる。 そう、まるで…昨夜の事など忘れてしまったかのように…変わらない態度…。 「どうしたんだい?……元気がないみたいだけど…」 不思議そうに首を傾げる花月に十兵衛はイラ立ちを感じた。 「……いや、何でも…」 「でも十兵衛、顔色が……」 心配顔の花月が親友の額に手を乗せようとしたとき…十兵衛の肩がビクリと震えた。 「…驚かせた…?」 「あ…いや……」 十兵衛は気まずそうに顔をそらせる。 「本当に調子悪そうだね…今日は早く休んだ方が良いよ」 「…大丈夫だ」 「無理しないで、休める時は休んでおかないと…」 「だが…」 1日、2日くらいならグループの事は大丈夫だから。 そう言って微笑む花月…十兵衛にとって、その優しさが今はとても歯痒い…。 「…体の体調が悪い訳ではない…心配するな」 鋭い視線とは裏腹に落ち着いた声。 しかし、その態度が逆に花月を不安にさせる。 「…十兵衛…本当にどうしたの?」 貴様はオレの些細な表情にはこんなに敏感だと云うのに…。 困ったような表情をする花月の肩を引き寄せ…細い身体を抱き締めた。 「十兵衛?」 「…少し…話がしたい…」 「…?…うん…」 十兵衛の部屋は昨夜の二人の行為を残す状態にしてあった。 花月の視線がベットに止まると、昨夜の行為を思い出したのか整った顔を真っ赤にさせ、 その仕種が何とも可愛らしく映ったのか、十兵衛の表情が自然と緩む。 「…えっと…話って…?」 「あ、ああ…」 花月を手近な椅子に座らせ、十兵衛も向い合せの状態でベットに腰を降ろした。 しばらくの間、沈黙が二人を包む。 よほど言い辛い事なのだろう、と察した花月は親友の言葉を黙って待っていた。 「花月…貴様にはその…他に想い人がいるのか?」 「え…!?」 思いもよらぬ十兵衛の質問に花月は驚いた。 「いない…よ」 何故そんな事を聞くのだろうか…花月は十兵衛の考えが判らない。 「では…何故…共に朝を迎えてくれない?」 「あ…」 十兵衛の言葉に花月は戸惑いを隠せない。 「貴様を抱くときの至高の喜びと…朝、目覚めたときの喪失感…それがオレには…辛い…」 花月の黒水晶の瞳が困惑に揺れているのを見て、十兵衛は再び口を開く。 「不安なんだ…もしかしたら貴様には他に…」 「いない…」 十兵衛の話を黙って聞いていた花月が口を開いた。 「他に想う人がいて……その…できる訳ない……」 言葉の後半は顔を真っ赤にさせてシドロモドロになっていた。 「では何故…?」 十兵衛は再び同じ質問をする。 何故共に朝を迎えてくれないのか…と。 その質問に花月は頬を朱に染め、膝に乗せている両手を強く握りしめて俯いてしまった。 十兵衛は花月の答えをジッと根気強く待った。 そして……。 花月は自分の体を小さく縮こまセ、意を決したように呟いた。 「……………………から…」 本当に小さな声で花月が答える。 「…す、すまない…聞こえなかった…」 聞き返すと花月は十兵衛をキッと見つめ、視線を合わせる。 「ね、寝起きの顔を見られたくなかったから!」 …… ………………。 顔を真っ赤にさせて花月の言った言葉…それは、十兵衛には想像もしていない言葉だった。 花月の言葉を聞いた十兵衛は体を屈め、肩を震わせた。 怒らせたのかと心配した花月が、口を開こうとした瞬間。 「あははははははははは!!」 「!?」 十兵衛はめずらしく大きな声を立てて笑い出した。 「な…わ、笑わなくても…」 頬を朱に染めて抗議する花月を十兵衛はふわりと抱きしめた。 「すまない…安心したらつい、な」 十兵衛は花月の艶やかな黒髪を一房手にとると、そのまま口付ける。 「花月…今宵は朝まで居てくれないか?」 華奢な身体を抱きしめている十兵衛の腕が自然と強くなる。 十兵衛の真剣な言葉に花月はやや間をおいてから… 「………ん」 消え入りそうな小さな声で了承した。 「ん…」 優しい口付け…それはやがて浅く深く二人の吐息が重なり合い、お互いの息が上がっていった。 「花月…」 相手の耳もとで優しく名を囁き、そのまま耳を甘く噛むと花月の身体はピクンと反応をする。 「あっ…」 十兵衛は花月の耳を舐めながら同時に胸にも愛撫を施していく。 今はただ、この腕の中にいる最愛の親友を上り詰めさせる事が望み。 「ふぁ…あっ」 快感を感じるその行為、だが花月の身体はまだ慣れていなかった。 優しい愛撫も続け過ぎると苦痛に変わってしまうのだ。 十兵衛はもっと貪りたいのをグッと我慢して、花月の快楽が苦痛に変わる前に愛撫の場所を変えていく。 「んん…っ」 花月は声を外に漏らさぬ様、両手で自分の口元を押さえていた。 だが、必死で快楽から堪えているその表情は辛そうに見える。 そんな花月を見た十兵衛は、口元を押さえている両手を少し強引に外した。 「じゅう…んっ」 何かを言おうとした唇は、そのまま十兵衛の唇によって塞がれる。 舌を絡めとられ、花月は何も言えなくなった。 二人の唇の間…透明の雫が糸となり、ようやく離れた。 「ふぁ…」 息が荒く、甘い…。 そのまま首筋に舌を這わせる。 「はぁ…っん」 甘い嬌声に十兵衛の胸の奥が鈍い痛みと共に高鳴っていった。 「花月…」 十兵衛は堪らないという感じで花月の細い身体を強く抱き締めた。 それに答えるかのように花月は、十兵衛の背に腕を回す。 「ひゃう!」 突然、熱を帯びた中心を手に取られ、花月の身体が大きく跳ね上がった。 「や…十兵衛、じゅう…べ…」 途切れ途切れに名を呼ばれ、十兵衛は自分の腕の中にいる人が欲しくなる。 先走る精を手に絡め、その指を少しずつ奥に侵入させる。 「…っあ!」 十兵衛の指が動く度に湿った音が部屋に広がった。 指と舌の優しく、それでいて激しい愛撫に花月の身体は敏感に反応し、 「花月…」 優しく名を呼んで花月の肩を抱き込むように押さえると、自身を中心に宛てがう。 「ふぁ…あっ!」 熱いモノが自分の内に入ってくるのを花月は快楽と痛みの狭間で感じとる。 まだ、行為事体になれていない身体は痛みの方を強く感じてしまう。 眉を寄せ、必死に痛みを堪えている花月の唇が十兵衛の唇と重なり合う。 「ん…ぁ」 深い口付けに花月の身体の力が抜けていく。 タイミングを見計らって十兵衛は自身を花月の内に収めていった。 「…辛いか?」 完全に一つになったとき、十兵衛が心配そうに語りかける。 「ちょっと…」 正直に答える花月の頬に優しくキスをすると、十兵衛は申し訳なさそうな表情で視線を合わせた。 「…悪いが…動くぞ…」 いつもなら花月の意見を尊重する十兵衛だが、今の状態では行為を止めることなど出来そうもない。 ましてや今、腕の中に恋焦がれて止まない花月が、普段見ることが出来ない何とも艶かしい表情で自分を見ているのだ。 止められる方がどうかしている。 「くっ…ああ!」 動き出した十兵衛に、花月は苦しそうな声を上げる。 そんな花月を抱きしめて十兵衛は、ゆっくりと動きながら至る所にキスの雨を振らせていく。 「んっっ…あっ、はぁ…」 少しずつ快楽を見い出した花月の身体に合わせて十兵衛の動きも早くなっていった。 ベットの軋む音が徐々に激しく部屋に響き渡っていく。 「じゅう、べえ…ぼ、僕…も…ダメ…」 「オレも…だ」 互いの限界を確認し、二人は同時に頂きに達した。 カーテンの隙間から入ってきた朝の光に花月は目を覚ました。 隣では、十兵衛が規則正しい寝息をたてて今だ夢の中にいる。 その表情は昨夜とは別人の様に無邪気な寝顔だ。 思わず花月は笑みを浮べてしまう。 「まるで違う人みたい…」 そう呟くと同時に花月は、この部屋から出たい衝動に駆られる。 本当の原因は気恥ずかしさから。 このまま十兵衛が目を覚ましたら自分はどうやって反応を示せば良いのだろう…。 それが分からないから花月は十兵衛の元から早々に立ち去るのだ。 自分の部屋に戻って一眠りすれば気持ちが落ち着き、十兵衛にいつもと変わらず接する事ができるから…。 だが、自分がそうする事により彼が悩んでしまうとは…花月は思いもしなかった。 「…花月」 不意に声を掛けられ、顔を上げると目が合った。 「…本当にいてくれたんだな…」 心底ホッとした表情をする十兵衛に花月は思わず俯いてしまう。 「花月…?」 腕の中の花月を抱きしめ、その頬に手を寄せて顔を上げさせた。 再び視線が合った瞬間、十兵衛の視界が闇となる。 花月が十兵衛の顔に枕を押し付けたのだ。 「…寝起きの顔…変だから見ないで…」 照れ隠しにそう言う花月の顔は赤くなっていた。 十兵衛は顔に枕を押し付けられたまま、花月を抱きしめた。 「え、ちょっと…!?」 戸惑う花月が枕から手を離したスキに十兵衛は顔から枕を外した。 そのまま自分の下に組み敷く体制になる。 「確かに…寝起きの顔はマズイな…」 「………」 十兵衛の言葉に花月は何も言えない。 「朝だというのに…またその気になってしまう」 驚いた表情の花月が何かを言おうとしたが、十兵衛はその唇に深く自分の唇を重ねた。 朝日が差し込む部屋、二人がその部屋を出るのはもう少し時間がかかりそうだった。 |
乾めぐみ様の所のキリ番で頂いた
「苦しいけど切ないらぶらぶな十花」です♪
朝からとても素敵な2人…あああ、うっとり…(おい)
でも、確かに前の晩にあれだけ盛り上って(おいおい)いたのに
朝、相手が居なくなると言うのは…確かに悩みますね…(^^;)
乾様、素敵な小説、どうもありがとうございました!!