「The Beast」T
安藤トロワ
引き裂いて 身体の隅々まで
すべて流し込んで その欲望を すべてその身に流し込んで
身体の奥から変えられていく
つぎに目覚めたときにはもう 違う生き物に
「ひっ、あァッ…――――!!」 甲高い嬌声が室内に響く。それと共に熱い息遣いと衣擦れの音。そして淫らな水音。 お互いだけしか判別がつかないような闇の中、獣のような態勢で欲望を受け止める。 生理的な涙が流れ落ちる頬を、男の舌が通り、雫を拭っていく。それはかすかに残った男の理性であったのだろうか。 今はもう欲望だけに身体を支配され、獣のように自分を犯す男の熱を感じるしか出来ないこの身を案じてくれているのだろうか。 花月は次々に打ち込まれる楔から逃れるように上体を逸らし、シーツを掴んで悦楽の波から這い上がろうともがいていた。 しかし、逃げても逃げても現実に引き戻され、より深く楔を打ち込まれる。 堪えても溢れ出る嬌声と、身体中を駆け巡る快楽に涙が出る。 乱暴な抱擁と結合。時折かいま見える優しい仕草。けれど、人間らしいものはすべて、獣のような性急さで奪い、侵食していく。 「う、あぁ、はぁ………やァ、嫌ぁっ!!」 腰の一番細い部分を掴み取られて、男の楔により深く沈められる。容赦の無いその腕に爪をたてても男の腕はびくともせず、ただより深い結合をしようと花月の腰を引き寄せるばかりで。 体内の奥深くに男の欲望が蠢くのを感じる。 花月の一番感じる箇所を熟知した、その動き。 ――――…筧 十兵衛。 今、花月を後ろから獣のように犯しているのは筧十兵衛そのひとだった。 着ていた着物は全て剥かれ、腰紐で辛うじて身に纏わり付いている襦袢もたいして役に立たない。 うつぶせにされて腰だけが上がった状態で犯されている。 花月の背中は剥き出しになっていて、十兵衛の欲望が花月に出入りするたび、戦慄く花月の背中から首筋にかけてのラインを十兵衛が舐め回す。その感触に堪りかねたように花月が声を上げると、十兵衛はよりいっそう深くに己を突き進めて花月を鳴かせるのであった。 「いやぁっ…!十兵衛っ、じゅうべ…え…っ……、っあ、う…あァッ!!」 その叫びは届かない。その呼びかけは届かない。 今の十兵衛は普段の筧十兵衛ではなかった。 力ずくの交合。否応なしに引きずり出される快楽。 本気で抵抗しても敵わない。いや、本気で抵抗するなど出来るわけが無い。 彼は――――…十兵衛なのだ。 毎晩、花月をこの手で確かめようとしっかり抱き締めたまま眠る彼ではない。 花月の耳元でしか睦言を言わなかった彼ではない。 黒い瞳を逸らさずに花月を見つめていた彼ではない。 わかっているのに。 わかっているのに、彼を止められない。 引きずり出される快楽を押し留められない。 「………ッヒ、ああァァァァッ―――――!!!」 十兵衛の欲望が花月の蕾から一瞬抜かれたと思った瞬間、それはなんのいたわりも無く花月の蕾を貫いた。 行き過ぎた快楽に、花月は気をやってしまい、なかにある十兵衛の雄を締め付ける。 十兵衛はその締め付けさえも食い破り、さらに奥へと欲望を穿ち、己を放った。 「うあァァァッ!!!………あ、はぁ………ん………」 花月が意識を手放したのは、花月の体内に十兵衛の熱い飛沫が叩きつけられたと同時であった。 花月が意識を手放しても、十兵衛の欲望は萎えず、花月の身体を貪り続けた。 どうして。 どうしてこんなことになってしまったのだろう。 花月は消えゆく意識のなかで、数日前のことを思い出していた……―――― めずらしいこともあるものだ、と思ったのだ。 先日、無限城最強のキッズグループを束ねる、雷帝・天野銀次からの言葉に、花月は率直にそう思ったのだ。 銀次からの言葉はこうだった。 「最近ちょっと手強いヤツが降りてきてる。そこで、今回は精鋭を出して奴らに当たって貰おうと思ってるんだ。………カヅっちゃん」 「はい」 きっと自分と十兵衛、そして朔羅にその命が下されると思ったのだ。 今のところ連携でバトルが出来るのは元「風雅」の面々、花月・士度の四天王コンビだけだったから。 「十兵衛、借りてもいいかな?」 「……え?」 予想外だった。 きっと傍にいた士度も同様の思いだったろう。 「十兵衛と士度のコンビでやってもらう」 そうにっこりと笑った銀次は、あっけにとられた花月の肩をぽんぽんと叩いた。 「大丈夫だって。二人の実力は知ってるでしょ?」 で、でも銀次さん。いままで十兵衛と士度が一緒にバトルしたことなんて…」 「うん。無いよ」 花月の言葉を続けた銀次は、さも当たり前だと言う顔をして言ってのけた。 「無いからいいんだよ。ちょっと意外な組み合わせだと思わない?それに、俺たちにしても、新しい攻め方が開発出来ると思えばそんなに苦じゃないはずだよ」 「…………」 「だーいじょーぶだって!二人でやればなんとかなるよ」 いまだ不安を隠しきれないでいる花月に、銀次は朗らかに笑って見せた。 「……花月」 今まで黙っていた士度が口を開いた。 花月は無言で士度のほうに振り向くと、士度は何とも言えないような顔つきをしていたが、やがてひとつ溜息を吐くと、言葉少なに花月に言った。 「そんな心配しなくても大丈夫だろ。……アイツもああ言ってることだしよ」 「士度…」 「あいつだってそう言うんじゃねぇのか?」 「…そうかな」 「そーだろ」 「…うん」 いまいち安心しきれなかったが、銀次の中ではもう決定項だろうし、いまさら反対しても何にもならないという思いが勝り、花月は十兵衛と士度とのコンビに賛成した。 そしてそれを十兵衛に伝えたときも、十兵衛はただ「そうか、わかった」とだけ言ってすんなり承諾してしまったのだ。 自分の心配性が行き過ぎただけのことかと、少し気が楽になったが、花月の胸の中にはなんだか妙な燻りが残っていた。 その日の夜、十兵衛は部屋に戻らず、士度となにやら話し込んでいるようだった。そして、その日花月は一度も十兵衛と顔を合わさなかった。 次の日の朝、十兵衛は士度と共に目的地に向かった。 花月とは顔も言葉も交わさないままだった。 そして4日ほど過ぎた。 十兵衛と士度からはきちんと連絡が届いていたが、いままでにない長引いたバトルに花月は不安を隠せなかった。 最近ちっとも十兵衛と夜を過ごせなかった花月は、十兵衛を想うと少し寂しく思ったが、そんな花月を気遣ってくれたのか、朔羅が久しぶりに茶会を開くというので、お言葉に甘えて参加させて貰うことにしたのだった。 茶会には花月のほかにも銀次やマクベスも招待されていたが、皆朔羅お手製の和服に装いを変えさせられてしまった。 銀次とマクベスは男性用の、朔羅はもちろん、花月は女物の和服に。 そう、この茶会は純和風の茶会だったのである。 お茶はもちろん抹茶。添え物は和菓子。 花月は懐かしさに顔を綻ばせたが、残る二人の表情はなんともいえない顔つきであった。 それでも元気の無い花月を元気付ける為に開かれた茶会である。銀次とマクベスは苦い抹茶(それでも朔羅は精一杯甘くしたのだが)を引き攣った表情で飲み干し、和菓子にばっかり噛り付いていた。 茶会終了後、朔羅とあとの二人は後片付けをするために残り、花月だけが部屋を退出した。 花月にとってはこころ温まるひと時であったが、あの二人には可哀相な思いをさせてしまったかな、と帰り道に花月は笑いをかみ殺した。 「あ、満月」 ふと空を見上げると、聳え立つ無限城の摩天楼の隙間から満月の光が零れ落ちていた。 月の光が強いせいで星があまりよく見えない。 花月はなんとか星を目で捉えようと思い、目を凝らしながら、月の光が目に入らない位置に行こうと上を向いたまま歩いた。 「あ……ひとつ見つけた」 ようやくひとつ見つけると、花月はもっと見つけたくなり夢中で空を見上げる。 ずっと昔にそんな遊びをしたなぁ、とまた切なくなったが、月の強い光と星の微かなひかりに照らされて元気を取り戻した。 しかし、空にに顔が向きっぱなしだったため、花月は足元に何の注意も払っていなかった。 急に身体が後ろに傾いた。着物だった為、足を広げて踏ん張ることも出来ない。 いや、あまりに急な出来事だったため、着物を着ていなくても躓いたかもしれない。 「あ、れ……?」 まるでスローモーションのようだった。 身体が平衡感覚を無くし、眼の前には夜空が広がる。 もう少しで地面に付いてしまうかな、などどぼんやり考えていた花月は、己をしっかと抱きかかえた腕に縋り付いた。 背中に広がる温かな抱擁。 急に心が軽くなる。 「……大丈夫か?」 耳元に直接注ぎ込まれる低い声。十兵衛の、声で。 「うん」 花月の表情が明るくなった。満面の笑みで、己を抱きかかえる腕に縋りつく。 「その体勢はいくらなんでも大丈夫じゃねえだろ」 後ろから士度の声がした。どうやら無事に戻ってきたらしい。 士度の言ったことは、そう、十兵衛は花月の頭が地に着く寸前に花月を己の上に引き上げ、自分が花月の変わりに地に着いたのだ。 おかげで花月は無事で、まだ夜空を見上げていたが、十兵衛は頭を思いっきり地面にぶつけていた。 「おい、平気か」 心配そうな声で士度が十兵衛に尋ねる。 「ああ」 しっかりとした声で十兵衛が答えると、耳に直接響く声に、花月は嬉しくなってますます十兵衛の腕にしがみつく。 「? 花月?」 いつまでたっても離れない花月に、十兵衛は不思議そうな声をしたが、そのまま花月の好きにさせていた。 そんな花月の様子を見て、士度はやれやれといった感じに言葉を投げた。 「おい、いちゃつくなら部屋帰れ。俺はもう行くぞ」 「…すまん」 「うん、じゃあね、士度」 すまなさそうにしている十兵衛とは対照的に、花月はそっけない。 そんな受け答えにももう慣れたのか、士度は背を向けて歩きだした。 「あ………、おい花月」 「何」 突然振り向いて言った士度への反応もこころなしか冷たい。 「ヤツ疲れてっからな。あんま無茶さすんじゃねえぞ」 「……疲れてる?」 士度の言葉を受けて、花月は十兵衛に問い掛けた。 「…少し、な」 十兵衛的には軽い口調で言ったつもりだったが、やはり精神的にも肉体的にもかなり疲労が来ていたのか、花月には十兵衛の疲労感がはっきり見えてしまう。 花月はすぐに十兵衛の上からどいて立ち上がり、地面に張り付いている十兵衛の腕を引きつかんで起こさせてやった。 久しぶりに見た十兵衛の顔は汚れて、少し前に見たときよりも精悍に見えた。 が、顔がなんだか熱っぽい。 よく見ると、本人は隠しているのだろうが肩で息をしているのが見える。 こころなしか息も上がっているようだ。 「十兵衛、大丈夫……?」 「……大丈夫だ、心配ない」 「士度、十兵衛に何かあった?」 先ほどとは180度反対な気がするほど真剣な声と表情で花月が士度に尋ねた。 「目立った外傷は無いぜ。……だが」 急に言葉を詰まらせた士度に花月が鋭い声を飛ばす。 「だが?」 「俺がヤツらに攻撃を仕掛けたときに、十兵衛がモロに俺の気を浴びちまったからな…。ちっと身体の負担になったかもしれねえ。たいした事にはならないと思うが……、今日はゆっくり寝かしてやったほうがいい」 口調は軽かったが、声音は真面目なものだった。 「…わかった。すぐに部屋に帰ることにするよ。…士度、お疲れさま」 花月は突っ立ったままの十兵衛腕を強く握り、士度に別れとねぎらいの言葉をかけた。 「おう。じゃあな」 それを士度はいつものように軽く受け答える。 そしてそのまま二人に背を向けて歩いていってしまった。 「十兵衛、歩ける?」 今まで我慢していたのだろうか、俯いた十兵衛に花月は肩を貸してやった。 「ああ…、すまん」 「いいよ。ごめん、さっき帰ってきたばっかりなのに無理させたのは僕のほうだ。…はやく部屋に戻って休もう」 そう言いながら、自分よりも逞しい身体をした十兵衛の身体をやや引きずるかたちで歩き出す。 「そうだな…。……花月」 「ん?」 「……どうしたんだ? 着物など着て」 少し荒めの息を押し殺すようにして十兵衛が尋ねた。 「あ、コレ? 今日朔羅さんがお茶会を開いてくれてね。これ着てくださいって言うからさ…」 「そうか……。よく似合っている…」 「そう?」 「……ああ」 偽りの無い声。十兵衛のこのシンプルさが好きだった。 その後も、自分たちの部屋までの道のりを二人で少しづつ歩きながら話した。 十兵衛はやっぱり下を向きっぱなしで。 気持ちが悪いのだろうかと思ったのだ。そのときは。 やっとの思いで部屋に辿り着き、十兵衛をベッドに寝かせると、部屋の明かりをつけないまま花月は十兵衛の身体の汚れだけでも拭ってやろうと洗面所にいき、タオルを濡らして戻ってきた。 十兵衛の顔を拭こうと思ったとき、ふと部屋が暗いことに気づき、タオルを寝台に乗せてベッドヘッドの真上にある開き戸を開ける。 途端に部屋は月の光で満ち、明るくなった。 「……………!!!」 そのとき、花月は十兵衛の身体に異変が起きたことなど知る由もなかった。 「今日の月はすごく明るいね。………十兵衛?」 花月は我が目を疑った。 「っぐ、がっ…はっ…っ…」 さっきまで疲れきったようにベッドに沈んでいた十兵衛が身体を縮ませてなにやら苦しそうにもがいている。 「十兵衛? 十兵衛!!」 「うっ、ぐ…あ…っ…」 これは尋常ではない。そう判断した花月は十兵衛の身体に触れると、あまりの高温にドキリとした。 とにかく冷やさなければ、と身体を拭くために持って来た濡れタオルを十兵衛の額に押し当てる。 心臓が、跳ね上がった気がした。 タオルを持った手を十兵衛が掴んだと思ったら、今まで閉じていた目をゆっくりと開けたのだ。 目を開けたことに驚いたのではなかった。 驚いたのは……己の手首を掴む男の手の熱さと、燃えるような金色の眼をしていたことだった。 「……十兵衛……?……っ、うわっ」 いきなり手首を返されて十兵衛の代わりに花月がベッドに沈み込む。 濡れタオルがやけに静かな音で床に落ちた。 わけが分からなかった。 十兵衛は花月に馬乗りになり、花月の両腕を己のそれで繋ぎとめて固定した。 ハッ、ハッ、と胸が上下するほどに激しく呼吸している。 「十兵衛?何を…っ…」 「何をする」と花月が言いかけたとき、乱暴にうつぶせに返させられる。 捻られた手首が痛い。 抗議の声を上げようとしたとき、力任せに帯が引きちぎられる音がした。 とんでもなく強い力と早業で、たちまち着物の帯はただの布切れと化したのだ。 「十兵衛!!!!」 名前を呼んでも、反応が返ってこない。 「やっ、十兵衛!!!」 着ていた着物も剥ぎ取られた。 勢い良く床に落ちる。 襦袢姿になった花月の首筋に、歯が立てられた。 「っい…痛っ…」 まるで、犬歯のように尖った歯。 噛み付いた傷口から血が染み出てくるのを感じた。 十兵衛は息を荒げてそれを舐め取り、次々に出てくる血に夢中になって舌を這わせ続ける。 「嫌…っ、嫌だっ!!!十兵衛っ……!!!」 まるで何かにとり憑かれたような十兵衛をとてつもなく恐ろしいもののように感じた。 本能が告げていた。 コレは十兵衛ではない、と。 後ろで自分を組み敷いているのは十兵衛のはずなのに、何故か別のイキモノがいるようだった。 それは、狂乱の夜の……………始まりだった。 続く→ |
安藤トロワさんの所でキリバンを踏んで頂いた小説、しかも続き物です(^^)
キリバン内容は「キモノデケモノ」着物で獣、と言う事です。
十花できちく?何故?というのも、トロワさんとお話した時
私(伽月)のパソは「十兵衛」の字を「じゅうへいえ」と打ちこむのですが、
必ず初めの変換を「獣兵衛」としてしまう…という話からでした…(なんてこったい)
続き物、とう事で先が楽しみです〜(おい)
イラストはスキャナーの問題で結局はじめに簡単に描いた物を…
もっとキツイのは次回…
メーラーが復旧(?)したので何とか載せれましたよ〜(><)