「The Beast」U
安藤トロワ
引き裂いて 身体の隅々まで
すべて流し込んで その欲望を すべてその身に流し込んで
身体の奥から変えられていく
つぎに目覚めたときにはもう 違う生き物に
生まれ変わる
ああ 目醒めたあなたは こんなにも美しい
首筋に当たる舌先が熱い。 「やっ、十兵衛、やめろっ!!!!」 花月と十兵衛の体格の差はありすぎる。 ただ体に乗られているだけなのに、花月が体を起こそうとしてもびくともしない。 信じたかった。 「ふ、う……っ…」 唯でさえ感じやすい体が跳ねる。 「ぐっ、……うぁ…」 十兵衛の重心が背中にかかる。 気管が圧迫されて息苦しい。 少しでも気管に負担がかからないように、顔を横向きにして耐えるしかなかった。 そのときだった。 十兵衛がいきなり花月の腰を引き上げたのだ。 精一杯顔の向きをずらそうとするが、背中にかけられた重心のせいでうまく動かせない。 そして、引き上げられた腰を抱えているのは………十兵衛。 必死に。花月は必死に十兵衛の腕から逃れようと見を捻じった。 しかし男の身体はびくともせず、抵抗はただ花月の体力を奪っていくばかりであった。 「!!!」 それは何度もそこを往復して、次第に湿り気を帯びてくる。 十兵衛の舌が襦袢の上から花月の蕾を嬲っているのだ。 何度も何度も、ただ其処だけを舐める。すぐにそこは唾液塗れになり、濡れた布が花月の蕾にぴったりと張り付いた。 なぞるだけの、布越しの愛撫。 今まで受けたことがない感触に、花月は怯えを隠せなかった。 「いやだっ…!!十兵衛、離せっ!!……っあ…」 しかし、布越しとはいえ花月の蕾は十兵衛の愛撫に綻び始めていた。 十兵衛は舌先を尖らせて蕾に押し込もうとするが、間に布があるために奥までは入らない。しかし舌を押してくる感触がダイレクトに花月の花芯を刺激する。 知らずのうちに花芯は熱を帯び、先端を濡らした。 どんなに抵抗しても、身体は快感に対して素直に開かれる。 十兵衛の舌が動くたび、花月の背すじが震える。 快感に咽ぶ声を漏らすまいと、必死に声を堪えた。 十兵衛じゃない。 十兵衛はこんな抱き方はしない。 十兵衛だから、だ。 すでに花芯はしとどに濡れ、そこに直接刺激を受ければ今にも達してしまいそうなほど。 いつもと違った体勢でいるのも幾許かの刺激を与えていた。 「離し…てっ…、十兵衛…離して…っ…」 声が涙声に変わる。 十兵衛ではないと頭の中では分かっていても名前を呼ばずにはいられなかった。 もう、涙を堪えることも出来なかった。 肌に十兵衛の手が直接触れる。ただそれだけで、肌がざわめく。 男性にしては柔らかな双丘を割り開かれ、奥の蕾が露になった。 そこはすでに十兵衛の唾液で緩み始めている。 襦袢の裾は花月の腰までたくし上げられてしまっていた。 大きくて固い、十兵衛の手のひらが花月の太腿を内側から辿る。 ただでさえ感じやすい身体は、ただそれだけの刺激で背を仰け反らせた。 「……っ、う…」 甘美な痺れが身体中に走る。 それと同時に花蕾も嬲られて、息をつく間もなく花月は達してしまった。 先端から花月の飛沫が飛び散り、十兵衛の手を濡らしたのが分かる。 容易く花月の身体はシーツに沈み込んだ。 冷たい生地が花月の皮膚を撫でる。まるでそれが十兵衛の心のようで。 短い自失はその音によって覚まされる。 十兵衛は、己の手に飛び散った花月の飛沫を舐め上げていたのだ。 その表情は、今まで花月が見たことも無い、野蛮な獣の貌をしていた・・・・・・―――。 上半身は崩れ落ちたまま、腰だけを上げさせられ、乱暴に貫かれる。 だが、乱暴、というのとは少し違うのかもしれない。 それは全く当たり前のことのように。 そう、当たり前のことのように行われていた。 幾度も吐き出させられる快感。 熱く叩き込まれる十兵衛の欲望。 十兵衛の容赦ない突き上げに花月がせつなく鳴いた。 既に花蕾は十兵衛の欲望に塗れ、いやらしい音を響かせている。 透き通るように白かった膚も、今は性的紅潮により火照ったように紅くそまっていた。 その膚に、貪るように十兵衛が舌を這わせる。 既に数箇所は歯で噛まれたのか、歯型が残っている場所すらあった。 血が滴っている箇所も・・・・・・・・・・・・。 気がつくと、どうやら寝台から落ちていたようである。 いつ寝台から落ちたのか、記憶に無かった。少なくとも、寝相のせいではないことは確かで。 花月は覚えのある疼痛を腰に感じ、ぼんやりした目で身体を眺めた。 昨夜の乱交の名残が体の奥と外側にありありと見える。体液に塗れた身体は、悲惨としか言いようが無い。 重い身体を引きずり、十兵衛に気づかれないようにして寝台のシーツを取り去り、汚れた着物と一緒にして脱衣所にほおりこんだ。 ついでに自身の体に張り付いた欲望をも洗い流してしまおうと、浴室に入り、シャワーを浴びる。 熱い湯が身体中の傷にしみたが、今はとにかく、この欲望に塗れた身体をどうにかしたかった。 痛む身体を堪えて、花月は身体の隅々まで洗い清めた。 浴室から脱衣所に上がったとき、ふと鏡を目にして、身体中に散らばる紅い印の多さに目を見張る。 その途端、やけに十兵衛の常ならない熱い吐息と、乱暴な指先を思い出して花月は俯いた。 否定の言葉を口にして、身体は肯定の意を露にして、そして十兵衛を受け入れた。 指先で紅い痕をなぞれば、そこからまた熾火が立ちそうで。 「――――…っ……」 目を覚ましたのか、寝室から十兵衛が頼りない声で恋人の名を呼んだ。 その声にまで反応してしまい、花月は唇の端に苦笑を滲ませた。 急いで新しい上着を羽織り、節々が痛む身体を引きずって、花月は寝室に向かった。 「かづ・・・・・・き・・・?」 花月が寝室に顔を覗かせると、十兵衛は未だ夢の中、といった風情であった。 昨夜の凶暴な獣の面影はどこへやら。 すっかりもとの十兵衛である。 昨夜は、あんなに貪り食うように自分を求めたのに。 何もなかったような顔をして。 寝室の入り口に立ち、十兵衛に声をかける。 「・・・・・・起きたんだ?」 「・・・・・・あ、ああ。・・・花月、俺は何故床で寝てるんだ?」 「・・・・・・やだな、忘れちゃったの?」 「 ? 」 「・・・覚えてないなら思い出させてあげようか・・・?」 「花月?」 「あのとき、君は・・・・・・」 言いながら、十兵衛の膝に乗ってくる。 「満月を見て、・・・・・・変わったんだよ」 「満月?・・・どういうことだ、花月?」 「本当に覚えてないんだね・・・・・・。それとも、正気に戻るときは記憶も消えてるのかな?」 妖しい笑みが花月の口元に浮かんだ。 唇が僅かに開いて、そこから血のように赤い舌が覗く。 「・・・・・・っ、花月」 ふいに、物凄い力で花月が十兵衛の肩を押し倒した。 「ねぇ、見てよ。綺麗な・・・・・・紅い月だよ」 なんとも知れない凄味に押され、十兵衛は窓の外に目をやらざるを得なかった。 そこには。 そこには・・・・・・・・・まるで、血に染まったように輝く紅い月。 END. |