蜘蛛の巣(ワナ)筒井矢野




       のしかかられ、身動きが取れない。

 必死にもがけば長い髪が絡みつく



 もがくほどに纏わりつくそれは蜘蛛の巣をおもわせて・・・・・・・





  自らの巣(ワナ)に捕らえられた蜘蛛は

    命果てるまでもがくのだろうか・・・・・・




  

   ・・・・・・誰でもいい,という訳ではなかった。いくら力で適わぬとはいえ、

 強引に組み敷かれるなど、許せるはずもなかった。しかも相手はわれわれ無限城の住人に

 絶対不可欠な『雷帝』を、外の世界に繋ぎ止めている人物・・・・・・

 闇の世界にも名高い『邪眼』の男・・・・いや、まだ少年と言っても差し支えないだろう。

 そんな少年に力ずくで犯されるなど、考えただけで気が狂いそうだった。

 何とか逃れようとも、結局は徒労に終わった。


 しかし、行為を知らない身体ではなかった。じわじわと身体が思い出していく。






 『彼』を・・・・・・彼の与える『快感』、を・・・・・・・・・・



 愛撫されるたびに身体は蘇る記憶通りに反応してしまう。途切れがちの呼吸に、

 高い声が混じり始めたのがその証拠。だんだんと思考すら適わなくなっていく・・・・・・・

 ・・・・認めたくなくて、抵抗できぬように、と破かれた自分のシャツで寝台の柱に括り付けられた両手が必死にシャツの残骸に縋る。

 急速に身体に蘇る記憶に少年の愛撫が追い討ちをかける。

 「は・・・・ぁ」

 執拗に絡めとられた唇から漏れる甘い声が、自分の声とは信じたくなかった。

 『彼』と抱き合うときに発した声を、この少年によって上げさせられているなど・・・・

 「ひぁ・・・ッや・・・・ぅ」

 薄い胸を指でなぞり、その線に沿って舌を這わせる。舌の生ぬるい感触が熱を煽った。

 ・・・・・また一つ、記憶が蘇る。その度に奥へと追いやられる理性・・・・・・・

 そんな葛藤を見透かしたように笑みを浮かべる少年・・・・・これが彼の本来の姿なのだろう。

 「初めてってわけじゃないんだな。花月?随分と敏感じゃねえか・・」

 何時の間にか剥き出しにされた自分の欲望はすでに熱く質量をもち始めていた。

 屈辱を感じても、それに手を絡められれば、身体は悦びに打ち震えてしまう。

 「あぁ・・・・・ん・・・・・やぁ」

 拒絶しているつもりでも、口から漏れるのは甘ったるい喘ぎだった。


 完全に身体は記憶を取り戻していた。それを抑えるには理性はあまりにも弱々しい。

 「んっんく・・・・も、う・・やめっ」

 もう、うっすらと液体を滴らせる自身に限界が近いことを感じ、行為の中断を要求する

 答えはすぐ返ってきた。否、と・・・そして、さらに追い上げるように先端に爪を立てる。

 「うッつ・・・く・・ッ」

 集中的に嬲られ、熱が開放を求めて暴れ狂う。

 「あッヤ、ぁ--」

 びくん、と一際大きく身体が跳ねる。『記憶』どおりに、熱が出口を見つけた。びくびくと内股が震えるのを確認した少年はすばやく先ほど破いたシャツの細い切れ端で、放出寸前でのそれを縛り上げる。

 「ひ!う、あッやっいやぁぁあぁあぁぁ!」

 出口をふさがれ行き場を失った熱が先刻の比にならぬほどに体内で暴れる。

 行き場のない欲望が吐き気を誘う。『記憶』にない行為に身体が悲鳴を上げていた。

 「ぐっ・・・ぅ、やぁ・・・」

 「・・・・苦しそうだな?どうする・・・?花月・・・」

 どうする、と聞かれたところで両手の使えぬ今、自分で慰めることなどまずできない。もしかしたらそのために自由を奪ったのかもしれない。

 ・・・・・・相手は待っているのだ・・・自分が理性をかなぐり捨てて縋ってくるのを・・・・

 悔しさで、涙が溢れた。その間にも容赦なく攻め立てられ、眩暈に似た感覚に

 思考が奥へと追いやられるのがわかる。

 自分の喘ぎさえ、遠くで響いている。気が、狂いそうになる。


 「ひぁ・・も、う放・・・し・・」

 ついに理性は葬られ、もう、耐えられぬと涙を流す。





  ・・・・・・ 涙で視界はぼやけた筈なのになぜか『彼』の姿が鮮明に浮かび上がる・・・・・





 そうか、と言って少年は拘束を解いた。大きく身体が跳ねる。

 「―――――――ッ!!!」




 ・・・・・その刹那、急に何時においても共にあった『彼』の姿は遠ざかり、掠れた・・・・・





 「おい・・・花月・・」

 ピクリとも動かずにいる身体を不審に思い、頬を軽く叩く。

 両手の拘束を解いても反応がなく、顔を覗き込めば目が合った。

 ・・・・どこか虚ろな・・・・漆黒の瞳を潤ませて、それでも俺をまっすぐ見つめてきた。

 熱で、血を引いたような唇が笑みを浮かべた、と思った瞬間、

 そっと掠めるようにそれを重ねてた。

 一目でわかった変化・・・・変貌。

 艶やかな唇が『誰か』を呼ぶが、声にはならなかった。

 おそらく、意識はないのだろう・・・

 夢の中で、花月は『誰か』に抱かれている。

 それでも身体だけは未練がましく現実の快感を求めて留まっているのだ。

 身体に口付けても抵抗もなく身を任せてきた。

 背に腕を絡ませ求めてくる。それを制して焦らす。

 「ふぅ・・・んッ・・・もう、早・・・く・・」

 耐えられない、と急かす身体を開いて己を沈めた。

 「やッあぁ・・・いやぁぁぁあぁ」

 慣れたとはいえ、所詮は男の身体・・・・・異物を拒絶して悲鳴を上げた。

 だが、それも最初だけで、時間が経てば自ら腰を震わせてきた。




 ・・・・・誰を見ている・・・・・あんたは今誰に抱かれているんだ・・・・・?


 問いかけてみても返ってくるのは喘ぎだけ。





 今この場で叩き起こして、現実を突きつけたら、あんたはどうする・・・・?

 泣くか?それとも俺を殺そうとするか・・・?





 気絶した身体を自分にもたれかからせ、髪をそっと撫でる。

 くすぐったかったのか、ぴくりと動いた。

 「ん・・・・・」

 少し動いて胸に顔を寄せた。

 自分より年上と聞いていたが、可愛らしくて笑みが零れた。





 ・・・・・何時の間にか引き込まれていた。

 ただ珍しくて、罠をかけた。完全に舐めてかかったら、俺のほうが捕まった。

 透けるような肌・・・・・・少女めいた美貌の下に制御できぬ欲望を持っている不完全な『モノ』・・・その不完全さが恐ろしいまでに妖艶だった。

 悲鳴すら嬌声と・・・・苦痛に歪む顔すら美しいと・・・・

 別に、あのまま放って置いても良かった。意にそぐわぬようなら闇に葬ったって良かった。


 ・・・・・蜘蛛が、獲物を巣にかけた・・・・・

 それを食べてしまおうと思った矢先、自分が巣に捕らえられた。





   自らの巣(ワナ)に捕らえられた蜘蛛は

    命果てるまでもがくのだろうか・・・・・・




 それは否。蜘蛛はその巣ごと獲物と共に獲物を喰らい

  己の失態を存在ごと葬り去る・・・・・・









     『随分好き勝手にしてくれたようですね・・・・・』

     『なんだ、まだ足りないか・・・・?』

     『・・・・・・帰ります。』

     『立てるのか?』

     『・・・・・!』

     『待てよ、送っててってやるよ、服も破いちまったしな。』

     『今度請求に伺います。さようなら。』

     『つれないねぇ・・・・かづちゃん。』

     『・・・・・・・』

     『・・・っておい、冗談だ絃を出すな。』










                 ・・・・・・完・・・・?


筒井矢野様より頂いた地雷小説(十花ベースで蛮×花)です。
もう、何と言うか筒井さん、いい感じですよう〜!!
ところで、これ、続くのでしょうか???(気になる…)
あ、タイトル…すんません、センス無くて、変なの付けてしまって…(滝汗)
イメージイラストの方は近々UPしますので、
もう少しお待ちください(ToT)
線画は出来てるんですが、簡単な色付けがまだ…(汗)


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